『未完の建築 ~前川國男論・戦後編 ~ 』の詳細情報

未完の建築
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タイトル 未完の建築
サブタイトル 前川國男論・戦後編
著者 [著者区分]松隈洋 [著・文・その他]
出版社 みすず書房 レーベル
本体価格
(予定)
6800円 シリーズ
ページ数 680p Cコード 1052
発売予定日 2024-12-04 ジャンル 教養/単行本/建築
ISBN 9784622097402 判型 A5
内容紹介
〈何が人の心をうつのだろう。その建築を築き上げている柱や梁の寸法釣合い、屋根の大きさや傾斜、そうした実体によって創り出された内外の空間、そうしたものの美しさが人の心をゆり動かす。そうした感動のみが人の心の支えとなる。
いつの頃からか、われわれはこうした建築の本質的な美や力を見失って、表面的な美しさ豪華さにのみ心を奪われるようになってしまった。いわば官能的なこころよさは究極人間の心を打つ永遠の力をもち得ない。飽きがくる。すたりが来る。それが現代文明の本質であるというのかもしれない。もしそうだとすれば、現代建築に人間精神の安住の地を求める事は、も早や不可能となるだろう。そして都市は永遠に精神の砂漠になってしまうだろう〉
(前川國男「設計者のことば」1963)

敗戦直後の木造プレハブ住宅プレモスにはじまり、新宿の紀伊國屋書店、慶應義塾大学病院、国立国会図書館、東京文化会館、東京海上火災ビル、弘前での建物群はじめ日本各地の美術館・市民会館など数々の建築の設計を手がけてきた前川國男(1905-1986)。高度経済成長、東京オリンピック、大阪万博、ポストモダンの時代の渦中にあって、ル・コルビュジエの精神を継ぎ、根源に立ち戻って「人間にとって建築とは何か」を問いつづけた前川は、派手な建築世界から距離をおき、その姿勢や思想は晩年の建築群に刻まれていく。
「私は、今日ある意味で一番えらい建築家というのは、何も建てない建築家だと、そういう逆説の成り立つそういう時代じゃないかと時々思います」とまで語った前川にとって、建築とは何であったのか。前川自身のことばや関係者の発言、当時の資料を駆使して、その人と作品と社会と時代を鮮やかに描き切った渾身の力作である。
『建築の前夜 前川國男論』(2016)を継ぐ、前川國男の仕事の戦後編。
目次
序章 前川國男の戦後をどうとらえるのか

I 敗戦後の混乱の中から
敗戦を迎えた前川國男と所員たち
建築家たちの「不吉な出発」
「プレモス」という出発点に託されていたもの
紀伊國屋書店からの再スタート
作品集、『PLAN』の刊行とMID同人構想

II 建築の工業化を求めて
敗戦後の建築学会と岸田日出刀
岸田日出刀と「日本的なるもの」
木造バラックの時代を乗り越えて
テクニカル・アプローチの始まり
日本相互銀行本店で試みたこと
テクニカル・アプローチは何を目指したのか

III コンペ挑戦の再開へ
弘前から始まる公共建築への第一歩
戦後のコンペをめぐる模索の中で
1950年代の指名コンペ連続応募の先に
節目となった二つの指名コンペ当選案
国会図書館問題とコンペのジレンマ

IV 集合住宅の実践を通して
ル・コルビュジエとの再会と欧米視察から
前川國男の求めた建築のリアリズム
RC造集合住宅の試作を通して
晴海高層アパートという最後のトライアル
テラスハウスというもう一粒の種子

V 歴史との対話と方法論の構築
日本建築家協会の設立をめぐって
「都市のコア」創出の実践へ向かって
ブルータリズムへの傾斜と方法論のゆらぎ
ブリュッセル万博で試みた「日本的なるもの」
ヨーロッパ長期滞在が与えたもの

VI 時間の中の建築を志向して
古都の伝統と歴史と向き合う中で
転換点としての京都会館
打込みタイル構法の始まり
群造形の構成による「コア」創出の試み
「音楽の殿堂」東京文化会館の誕生
唯一無二のモニュメントとして

VII 都市への提案を重ねる中で
近代建築の進路に対する懐疑
内省的な空間への志向転換
単位空間によるプランニングの方法論へ
激動する1960年代の都市と向き合う
弘前という根拠地での実践から
コンペと博覧会で培われた方法論

VIII 文明論からの問いを抱えて
ル・コルビュジエの訃報を前にして
都市へと手を差し伸べる方法論の展開
「もうだまっていられない」と書き留めて
「何も建てない建築家」という逆説の中で
「自然と人工」というテーマと向き合う

IX 都市の巨大化と建築の危機のもとで
超高層ビルへの挑戦の中で考えたこと
仕組まれた「美観論争」が露呈させたもの
日本万国博覧会の光と影の中で
鉄鋼館の「休眠」と万博の危うさをめぐって
方法論への確信と見えない着地点
熊本県立美術館に結実したもの
ポスト・モダニズムと「建築の危機」の時代に

X 最晩年の思考と方法論の到達点
「ドミノ」の方法論を乗り越えて
建築の永遠性を求める内省的な思考へ
ふたつの美術館と新・前川國男自邸
弘前のその後に見る晩年の境地
未完に終わったふたつの計画案
指名コンペ当選案とMID同人への思いを遺して

結章 前川國男の求めたもの


あとがき
前川國男建築設計事務所所員動静リスト
引用文献リスト
前川國男年譜
人名索引
著者略歴(松隈洋)
1957年兵庫県生まれ。1980年京都大学工学部建築学科卒業、前川國男建築設計事務所入所。2000年4月京都工芸繊維大学助教授、2008年10月同教授、2023年4月から神奈川大学教授。京都工芸繊維大学名誉教授。工学博士(東京大学)。専門は近代建築史、建築設計論。主な著書に『建築の前夜 前川國男論』『ル・コルビュジエから遠く離れて』『モダニズム建築紀行』『ルイス・カーン』『近代建築を記憶する』『坂倉準三とはだれか』『建築家・坂倉準三「輝く都市」をめざして』『残すべき建築』など。「生誕100年・前川國男建築展」事務局長、「文化遺産としてのモダニズム建築―DOCOMOMO20選」展と「同100選」展のキュレーションの他に、アントニン・レーモンド、坂倉準三、シャルロット・ぺリアン、白井晟一、丹下健三、村野藤吾、谷口吉郎・谷口吉生、吉村順三、大髙正人、増田友也、山本忠司、浦辺鎮太郎、瀧光夫、鬼頭梓など、多くの建築展に携わる。2019年『建築の前夜 前川國男論』により日本建築学会賞(論文)受賞。本書は『建築の前夜 前川國男論』(みすず書房2016)の続編にあたる。
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