著者が二十年近く研鑽を積み、『枕草子』と漢文との関係について考案した研究書。まず、代表的な『枕草子』の章段において漢語表現や漢文受容に焦点を当て、詩、賦、伝奇、類書などの中国古典文学のジャンルを取り入れ、寓意や暗喩といった手法を解析し、従来未解明であった問題に新たな解釈を提示した。また、『枕草子』と『白氏文集』を中心に考察し、『源氏物語』に比べて『枕草子』には圧倒的に感傷詩が多いことを明らかにし、その背後にある感傷の美を浮き彫りにし、紫式部と清少納言の異なる受容感覚も分析した。さらに、最も古い『枕草子』写本である前田家本にしか見られない、漢文原典に忠実な特徴を解明し、従来の前田家本に関する楠説の信憑性についても再検討の必要があることを示した。附編では周作人の翻訳の経緯とその実態について考察した。附録として、『枕草子』に関する漢文論文の文献をまとめ、唐代の重要な『賦譜』全文を翻刻している。
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