◆第一句集
初蝶の森の光となりゆけり
湧き立つように現出した一つの生命体「初蝶」が心象の景へと移行した瞬間である。
懸鳥の玉虫色に光りけり
姫百合の淡き光を活けにけり
綿虫を掴めば光失へり
懸鳥の妖しさ、姫百合の華やぎ、綿虫という命の息づき……。いずれも光を伴う美的情調の極みと言えよう。久幸さんを光の魔導師だと思う所以である。
帯・谷口智行
◆自選十二句
鶯の喉の膨らみ見えにけり
見下ろして聴く時鳥山の寺
茄子の馬手綱もかけてありにけり
能登の潮零さぬやうに栄螺焼く
海鞘を糶る津波後三年育てきて
朝刊に少女の意見鵤鳴く
ほうたるやこの川に村育まれ
瓜の花谷は暮しのあるところ
遠花火果てて漁火残りけり
戦災の榧を遠目に若菜摘む
さざ波の綺羅にも触れて松手入
煤竹を手に手に僧の散りゆけり
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