『中世怨霊伝 ~敗れし者たちの群像 ~ 』の詳細情報

中世怨霊伝
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タイトル 中世怨霊伝
サブタイトル 敗れし者たちの群像
著者 [著者区分]関 幸彦 [著・文・その他]
出版社 教育評論社 レーベル
本体価格
(予定)
2000円 シリーズ
ページ数 256p Cコード 0021
発売予定日 2024-11-28 ジャンル 一般/単行本/日本歴史
ISBN 9784866241067 判型 46
内容紹介
勝者とは別に歴史に埋没した敗れし者に光をあてる初期中世の裏面。政争と怨霊、怨霊と内乱、修羅の群像をテーマに、敗れし者たちの足跡を追う。

以下、試し読み

「Ⅰ 怨霊と政争」

ここでは十~十一世紀の時代枠で、王朝政治史を語りたい。〝王朝〟の語が最も似つかわしい時代だろう。藤原氏が摂政・関白を独占した、いわゆる摂関政治隆盛の時代だ。宮廷内に多くの才女が登場する、女房文学の時代でもある。多くの読者の平安時代のイメージは、この藤原氏の栄華に由来する。章名のもとで、貴族世界の裏面をかたりたい。中身の多くは多分に『大鏡』による。藤氏が王権の一部を摂関政治という形で請け負うこと、これが王朝政治の本質でもある。小見出しに付した「三平」(時平・仲平・忠平)なり、「三道」(道隆・道兼・道長)の表現は、その『大鏡』が語るものである。語感の親しみもあり、王朝時代の藤原氏をイメージできるキーワードということになる。
ここで指摘しようとするのは、その藤原氏の来歴だ。源氏でも平氏でもない、藤氏についての話である。むろん主題は敗れし者の怨念・怨霊である。そこには菅原道真が、あるいは源高明が、さらには藤原忠文、そして元方がいる。あるいは生霊として著名となった藤原朝成や顕光のことも触れることになる。王朝貴族の栄華は、他方ではこうした人々の宿怨と表裏の関係にあった。この点をふまえることで王朝の政治の流れはより豊かなものになるはずだ。貴族の世界に散りばめられた怨霊の風聞をさぐることで、平安時代の裏面史を耕したいと思う。

怨霊の政争
「三平」時代

――「太郎左大臣時平、二郎左大臣仲平、四郎太政大臣忠平、……この三人の大臣たちを、よのひと「三平」と申き。」

『大鏡』は基経以後の藤氏の血脈をこう語っている。「大宅世継」、この奇妙な名の翁が藤原氏のサクセス・ストーリーの語り手だ。〝大宅〟とは、公であり朝廷を意味する。〝世継〟とは、世の転変、移りかわり、という意にほかならない。道長時代の晩年に属する万寿二年(一〇二五)を〝今〟そして〝現在〟に設定し、道長にいたる藤原氏の流れを列伝風に語った作品、これが『大鏡』である。「世継物語」の別名も、作者の分身たる大宅世継を介して王朝史をひもとくとの設定に由来する。
目次
Ⅰ   政争と怨霊
一 怨霊の政争
  「三平」時代/冥界からの消息/「天神」と「新皇」
二 「三平」以後
  小野宮流の人々/怨霊となった藤原忠文/入内の見果てぬ夢 ー 師尹流、あるいは廃太子
三 「安和の変」と裏事情
  「天慶之大乱ノ如シ」/事件の真相はいかに/政変の裏面と王朝武者/源高明の左遷/強運の人、九条師輔の〝ツキ〟/民部卿元方の悪霊/藤原朝成の ー「鬼トナリテ、七代マデ之レヲ取ルベシ」/兼通から兼家へ
四 「三道」の時代
  「三道」の周辺/「長徳の変」と伊周・隆家/安倍晴明、一条戻橋の怪/悪霊の左府・顕光の怨念
五 源氏物語と王朝の〝物怪〟
  『源氏物語』と物怪/道長の人となりー闇夜の肝だめし/怨霊たちの来歴

Ⅱ 怨霊と内乱
一 敗者の怨霊像
  白河院と物怪/頼豪、魔道へ/武威の呪力「辟邪」
二 保元の乱と怨霊たち
  悪左府頼長の登場/頼長の怨霊
三 崇徳院と魔道
  「新院御謀反」/乱の経過 ー『兵範記』より/「日本国の大魔縁」/教盛の夢、怨霊封印
四 内乱期、跋扈する怨霊たち
  鹿ヶ谷政変と藤原成親の死霊/俊寛と鬼界ヶ島/死霊・悪霊・生霊/龍宮と安徳天皇/「宝剣」と安徳天皇/「夢カ、夢ニ非ラザルカ」ー 法住寺合戦の顛末/「辟邪」とタブーへの挑戦 ー/「武者ノ世」到来/五大災厄と内乱/「紅旗征戎・吾ガ事ニ非ズ」ー 定家の達観/亡魂の行方

Ⅲ 修羅の群像 
一 悪七兵衛景清の虚実 ー 敗者の意地 ー
  謡曲のなかの景清像/謡蹟とその周辺/史実の景清をトレースする/平家の軍事力
二 建礼門院と安徳天皇
  建礼門院と「小原御幸」/冥界の龍宮城/平氏の怨霊と「文治」への改元/平家一門と「修羅」の闘諍
三 斎藤別当実盛と鎮魂
  謡曲『実盛』の世界/篠原合戦の幽霊/実盛と義仲/東国武士団の諸相
四 佐藤継信・忠信 ― 奥州の鎮魂 ―
  佐藤兄弟と謡曲「摂待」/佐藤継信と屋島合戦/奥州藤原氏と佐藤氏/奥州の鎮魂 ― 奥州合戦を考える
五 曾我兄弟 ―「報恩」と「闘諍」の世界
  「夜討曾我」と「小袖曾我」/『吾妻鏡』が語る曾我事件/曾我兄弟の来歴/反逆の系譜と再びの宝剣説話/曾我兄弟とその時代

附録
 特別鼎談「修羅を演ずる︱能・謡曲︱の世界」
 友枝昭世(喜多流能楽師・人間国宝)、中村邦生(喜多流能楽師)、
 司会・関幸彦

関係年表
参考文献
著者略歴(関 幸彦)
歴史学者(日本中世史)。元日本大学文理学部教授。1952年生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程単位修得。学習院大学助手、文部省初等中等教育局教科書調査官、鶴見大学文学部教授を経て、2008年日本大学文理学部史学部史学科教授に就任、2023年に退任。
著書に『英雄伝説の日本史』(講談社)、『武士の誕生』(講談社)、『百人一首の歴史学』(吉川弘文館)、『鎌倉とはなにか』(山川出版社)、『その後の東国武士団』(吉川弘文館)、『刀伊の入寇』(中公新書)、『戦前武士団研究史』『戦後武士団研究史』(教育評論社)、「武家か天皇か』(朝日新聞出版)など多数。
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