本書は、社会現象としてのファッションを取り上げている。ここでいう社会現象とは、 人々の共感をベースとして同じスタイルを長短の一定期間共有するという意味である。こ こには社会的表現としての、また社会的行動としての集団形成を見ることができる。個人 の尊重、表現の自由を大前提とした上で共感を通じて集団を形成し行動する論理は社会や 世界を変革する(今日的に言えばトランスフォームする)際に重要な役割を果たす。この 論理の解明にファッション研究は大きな貢献ができる。こうした認識が著者のファッショ ン研究のベースにある。 その際にすぐに想起されるのは、ファッションは、経済力の違い、性別・年齢の違い、 テイストの違い、国・地域・信仰の違い、自己(自分)・心身のあり方の違いなど多くの 条件によって多様な有り様を示すし、歴史的条件の違いによっても多様な有り様を示す。 さらには享受者と供給サイドとの力関係、享受者の主体性の有無・強弱、消費における浪 費・地球環境への多大な負荷の問題など、極めて複雑な要因も絡まり作用している。こう した絡まりを1 つの論理――生活者の主体性のあり方――で整理して関係する要因間の関 係性を提示した上で、その社会的歴史的意義を見出すことができれば、ファッションは現 代が直面している社会的課題を解決する際に有意義な役割を果たすことができるであろ う。(本書 まえがき より)
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