『大切なのは目が捉えた瞬間に迫ること。
対象物に言葉が追いつく寸前、この瞬間が唯一、
子どもと石との関係性に近いのではないか。』
グラフィックデザイナー・小林一毅、初の作品集。
作品の繊細な息遣いを感じることのできる(ほぼ)原寸で、完全掲載。
日々、私達が無意識のうちに見ている無数の「形」たちを良い/悪い、好き/嫌いと判断する「言葉が立ち上がるまえ」には、体の中で一体何が起きているのか…?
小林が子どもとの時間を過ごす中で感じた、
『自分が感じる“良い石”と、子どもの感じる“良い石”の違いとはなんだろう?』
という問いからはじまった、全591枚におよぶ“言葉が立ち上がるまえ”の「形」たち。
小林はポストカードサイズの紙に、生活の中で見つけた様々な形を自らの手で描き出していくことで、
グラフィックデザイナーとして「形」と向き合う自身の潜在的な、形の嗜好性に向き合い追究していった。
解説テキストも無くひたすらに作品=形が続き、収められた莫大な量の一見単純な形からは、その単純さゆえに形の根本に近づいていく体験を得られるような、まさに本がまるごと「立ち上がるまえ」となっている一冊。
*
言葉が立ち上がる前に
小林一毅
ふとした時に、自分の意思とは別に目が独りでに拾ってくるものがある。
「あっ」と声をあげ、忍ばせた紙切れとペンを急いで取り出す。
その場で簡単に描いたメモを頼りに家に帰ったら線を引く。
うまく言葉にできないものだから「なんか…」「こんな…」と呟きながら、
すでに消えつつある光景に触れるようにして形として立ち上げる。
目は何を求めていたのか、描くことで言葉に近づけると思って描き始めたが、
ある時、言葉に立ち上がることを拒まれている気がして描くのをやめた。
形だけがここに積み上がっている。
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